日本人の「仕事」に関する考え方
- okag62
- 2022年1月31日
- 読了時間: 4分
皆さんは、日本人の働き方についてどのようなイメージを持っていますか。「過労死」という言葉が、“Karoshi”として英語でも通じるように、死ぬまで働いてしまう変わった国民だと世界中で思われているのかもしれません。
また日本は、自殺者が多いことでも有名ですが(年間2万人程度)、これは働き過ぎや職場での人間関係によるストレスと無関係とは、考えにくいと思います。
ヨーロッパ諸国での夏休みは、バカンスに3〜4週間なんてところも珍しくないのに、日本はせいぜいお盆休み3日に有給を少し足して1週間休みを取れるかどうか。残りの有給も、結局消化できずに繰り越してしまうことも多い。男性の育児休暇なんて、職場の迷惑と思われ、復帰しても元の仕事に戻れない。朝早く起きて、一時間以上も満員電車に揺られオフィスに着いた頃には、もう疲れている。定時まで仕事をしても終わらないので、連日残業。放っておくと残業量が減らないので、わざわざ「ノー残業デー」というのを設けて、水曜日だけは必ず早く帰るようにする。でも全体の仕事量が減るわけじゃないから、他の日に多く残業するようになるだけ、というのが少し前までの日本の(特に企業や工場での)働き方の様子でした。
もちろん2022年の現在では、(特にコロナ禍の影響でリモートワークも増え)昔のように皆が働き過ぎという状態ではなくなり、働き方にも多様性が出て来ています。昔のような終身雇用制度や、年功序列が減り、若い世代はより良い待遇を求めて、積極的に転職もするようになったとか。それでも、社会一般の考え方として、「よく働く人」というのは決して悪いイメージではありません。「休みの日も出社して、仕事をした」と言ったら、「なんて馬鹿な人だろう」とは思われず、「責任感のある立派な人」という印象を持たれるはずです。もし、自分の娘が結婚したいと思っている男性が、「楽してお金を儲けたい」という人じゃなく、「汗を流して仕事をするのが好きだ」という人であったら、より安心できる気がするのではないでしょうか。
ではどうしてこんなに働くのか。もちろん社会のシステムが悪いとか、まだ近代化が遅れているとか、実は人々の暮らしが貧しいのだとか、企業が社員を奴隷扱いしているのだとか、マイナス面からの説明も色々できると思います。
しかし、平均的な人が持つ、ぼんやりとした「仕事に対する肯定感」には、別の説明が必要な気がします。
そこで今日紹介したいのは「古事記(こじき)」という本です。古事記は713年に書かれた、日本で最も古い書物とされています。この世の中が生まれた時、どんな神様がいたか。その後どのように神様が増えて、日本という国が作られていったか、というようないわゆる神話の本ですが、その中に仕事について書かれた箇所があります。働くということは元々神様のすることで、それを人間に任せたという記述です。(「古事記のこころ」小野善一郎著 2016年 青林堂)本来ならば神様がやるべきことを、任せてもらったとなれば、これはむしろご褒美に近いことです。人間が喜んでこれに取り組むのも、無理はない気がします。
これに対してキリスト教では、「創世記」にあるように、アダムとイヴが神様の教えに背き知恵の実を食べたため、「苦しんで地から食物を取り」「額に汗してパンを食べる」、つまり労働は原罪に対する罰として与えられたものだとされています。
そうなるとキリスト教社会では、罪である労働は、短ければ短いほど良いわけだし、しなくて済むならしない、という感覚になるのも無理はないという気がします。反対に日本では神様に仕える(だから仕事というのでしょうね)作業だから、やればやるほど自分の徳が上がる、と考えるのも自然な気がします。
もちろん現代社会で日々そのように感じながら皆が働いているわけではありませんし、仕事を取り巻く環境はもっと複雑でしょう。
ヨーロッパ的な仕事観と、アジア的な仕事観、どちらが良くてどちらが悪い、ということではありませんが、国や地域によって、「働く」ことに関して、全く考え方が違い、それが宗教や人々の習慣や歴史の中で生まれた価値観に根ざしている、というのが面白いと思います。
過労死 かろうし death from overwork
諸国 しょこく countries
珍しい めずらしい rare
有給(有給休暇)ゆうきゅう(ゆうきゅうきゅうか) paid holiday
消化する しょうか take (holidays)
繰り越し くりこし carry-over
復帰 ふっき return
残業 ざんぎょう overtime
コロナ禍 コロナか COVID-19 crisis
多様性 たようせい diversity
終身雇用 しゅうしんこよう lifelong employment
年功序列 ねんこうじょれつ seniority system
待遇 たいぐう salary, benefit, perks
近代化 きんだいか modernization
奴隷 どれい slave
肯定感 こうていかん positive feeling
箇所 かしょ part
ご褒美 ごほうび reward
創世記 そうせいき Genesis
背く そむく betray, disobey
額 ひたい forehead
徳 とく virtue
根ざす ねざす have roots in
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