「先生と言われるほどのバカでなし」
- okag62
- 2020年6月25日
- 読了時間: 3分
日本語では「あなた」という言葉は、あることはありますが、これは初対面の人でない限りは、ほとんど使われません。
何度か会ったことがあるのに、「あなたは?」などと言われると、急に他人行儀な感じになって、何か相手を怒らせるようなことをしたかしらとドキっとします。
普通は話しかける場合、その人の名前で呼びかけます。
「田中さん、今日は雰囲気違いますね。」
「林さん、明日の集まりにいらっしゃいますか。」
などのように、主語の部分に名前を入れて、呼びかけるのが一般的です。
名前の後に、「先生」をつけるという場合もあります。「先生」はそれだけで尊敬語です。私も日本語教師なので、当たり前に「夏織先生」と呼ばれています。
「先生」と学習者の皆さんから呼ばれるのは、個人的には好きです。自分が偉い人間になったような気がするから、ではなく、学習者の皆さんがそういった日本の風習や文化を理解した上で、上手に使っているのを聞くことが好きなのです。
尊敬語の場合は、自分以外のグループ(out-group)に使うのが一般的ですが、その割には、教師同士がお互いに「山中先生」「鈴木先生」と「先生」を付けて呼び合うことがよくあります。もちろん、お互いに相手をプロと尊敬しあっているからそう呼んでいる場合がほとんどでしょうが、意地悪な見方をすれば、生徒からはそれほど尊敬もされてない先生同士が、お互いを偉いと思い合っているようで、滑稽に見える場合も無きにしも非ずです。
「先生」と呼ばれるのは教師だけではなく、それ以外の様々な職業に就いている人々です。教師と言っても幅が広く、幼稚園勤務の若い女性から、大学の教授、空手教室、塾、ピアノやバレエなどの指導者も全部先生です。次に医者。これも有名な脳神経外科医などから、マッサージや鍼灸師、獣医、心理カウンセラーなどあらゆる医療に携わる人たち。その他には弁護士、税理士、小説家、画家、漫画家、作曲家、占い師や宗教の教祖など。そして政治家。
先ほども述べましたが、「先生」はそれ自体で尊敬語なので、「〜〜先生」「〜〜先生」と周りの人に呼ばれていると、なんだか自分が偉くなったような錯覚を覚える人もいるでしょう。自分の人間性を尊敬されているのではなく、知り合いになっておくとビジネスで有利なことがあるとか、何かしらの目的で「先生」「先生」と言ってくるのを誤解して、尊大な態度をとる政治家など目に浮かぶようです。そういった人をちょっと小馬鹿にした表現が「先生と言われるほどの馬鹿でなし」です。「先生」と言われるような職業の人ほど、自分の実力を見誤っている場合が多いことを揶揄していて、「先生」と呼ばれるような地位や肩書きもない人々の方が、自分の値打ちをよく分かっているということです。
父がよく偉そうな態度の人を見かけて言っていた言葉ですが、私もそうならないように、肝に命じていきたいと、いつも思っています。
初対面(しょたいめん)one's first meeting
他人行儀(たにんぎょうぎ)stand on ceremony, be distant
偉い(えらい)distinguished
意地悪(いじわる)malicious, spite
滑稽(こっけい)laughable, ridiculous
就く(つく)engage in
鍼灸師(しんきゅうし)acupuncturist
錯覚(さっかく)misapprehension
揶揄(やゆ)banter
肝に命じる(きもにめいじる)bear in mind
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